私が「AVの質向上が必要だ」と考える理由【藤森かよこ】
馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性
◆性交はしなくても、心が他者や世界に開かれている人は存在する
ともかく、理由はさまざまではあるが、この世の中では、相手のことなど何も考えていない似非(えせ)性交がおびただしく実践されている。そのために傷ついている人々が、これもまたおびただしく存在している。その類の似非性交によって自分の心が傷ついていること自体がわからない人々も多く存在している。
寂しく狭い似非性交の結果として生まれた子どもたちは、親の寂しい狭い人生に巻き込まれ影響を受け、寂しい狭い人生を反復し、さらに寂しい狭い似非性交を反復し、ついには性交からも、性愛からも、性からも、性を含む生そのものからも退却し、それは世代的に連鎖していくのかもしれない。
おそらく、あの機嫌の悪い目つきの尖(とが)った店員さんも、仕事は常に部下に丸投げで嫌味しか言わないあの上司も、重箱の隅をつつくようなことばかり言い呼吸するように嘘ばかりついているあの同僚も、ブラック労働を従業員に強いる悪名高いあの飲食店チェーンの経営者も、何を言っているのかわからないあの政治家も、匿名でSNSに誹謗中傷を書き散らしている人も、アマゾンのレヴューで「スカスカで中身がない」と拙著について評した誰かも、寂しい狭い似非性交の派生物かもしれない。
性交はしなくても、心が他者や世界に開かれている人は存在する。性交以外にも、心を他者や世界に開くことを可能にする活動はいっぱいある。
ただ、性交は、人間が自分以外の人間の存在の尊厳をリアルに感じる貴重な機会になりえるし、自分という存在全部を受容してもらえる貴重な機会のひとつになりえるし、それは人生の宝物であり、その宝物が愛の種(たね)となり、他人への理解を深めることになると、私は言いたいだけだ。
性愛にいたるどころか、性器の一方的摩擦運動としての似非性交が多い日本は、猥雑卑猥(わいざつひわい)ではあるが活力がない。まず、日本の性交をただの性器の摩擦運動以上のものにするために、性交の教科書としてのAVの質を向上させなければならないのかもしれない。
若い頃に、私はちゃんとした性交の手順やマナーを書いた英語の書籍を途中まで読んだことがある。けっこう分厚い本だった。大学の図書館で見つけて、図書館で読んでいた。日本語で書かれた同類の書籍は読むのがはばかられたから。そこには、良いセックスのためには、性交相手に対する思いやり(consideration)が必要と書かれていた。
今ならば、AV男優でAV監督でもあり性の啓蒙家でもあるしみけん(そうゆうペンネーム)の『しみけん式「超」SEXメソッド 本物とはつねにシンプルである イラスト版』(セブン新社、2022年)がいい。非常に実践的で男性にも女性にも有益だと思う。最近の若い日本人は読書習慣がないらしいので、イラスト版は読みやすいと思う。
(『馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性』の本文より抜粋)
文:藤森かよこ
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